先日、中国語発音講師の方が主催されている朗読劇に参加させていただきました。
こちらは中国や台湾のドラマのセリフを日本人の学習者で読み合わせをするという不定期で開催されているサークルです。
今回は台湾の恋愛小説の大御所、瓊瑤原作の《情深深雨濛濛》を取り上げました。
物語の舞台は1930年代の上海。陸家の異母姉妹イーピンとルーピンを軸に繰り広げられる愛憎劇です。
スタイリッシュな上海租界地区の当時の服装を丹念に再現したドラマは大変人気を博し、
2002年~2006年まで台湾と中国大陸の両岸でテレビ放映され、今でも多くの人を虜にしている作品です。
(湘南すみっこ中国語教室記事より引用)
元々私も中国や台湾のドラマが大好きでよく見ていましたが、出産以来そんな暇がなくなって遠ざかっていました。久しぶりに中国語とその世界を愛する仲間と共にドラマの世界に浸ることができてとても楽しかったです。
これを機にランチタイムにちょっとずつドラマ鑑賞を再開しようと思います。
さて、今回朗読劇をさせていただいたシーンで中国人を象徴するようなセリフがあったのでその話をします。
第二話で父親(陆振华・退役軍人)と第9夫人一家が暮らす豪邸にお金をもらいに来た第8夫人の娘依萍(イーピン)。
父はイーピン親子を冷遇しています。
少ししかもらえていない生活費はとっくに底を着き、家賃は2ヶ月滞納、服を買うお金もなく、1年間同じ服を着ています。靴はボロボロで何度も縫ってもう修理する箇所もないというほど。
第8夫人である母は病気がちだが病院へ行くお金はありません。
一方第9夫人一家は父と共に豪邸に住み、優雅な暮らしをしています。
父の家を訪ねたイーピンはまた異母兄弟の娘(ルーピン)が新しいブレスレット、息子は新しいおもちゃを買ってもらっているのを見ます。
そして父に現在の自分たちの苦境を話し、お金をくれるようお願いしますが、意地悪な第9夫人に嫌味を言われ、喧嘩になっていきます。
お金をもらいに来たと知った父は用意していた20元を渡そうとしますが、全然足りないのでイーピンは200元ほしいと言います。
そこからの日本語訳〜
雪琴(第9夫人):200元?ずいぶん大きな口を叩くのね!また新しい靴がほしいだの新しい服が欲しいだの。忘れないでよ、九一八事変のあと日本人が東北を占拠して私たちは上海に逃げてきたの。
あなたのお兄さんやお姉さんたちはまだ東北に残ってるのよ。パパも歳をとったわ、あの頃とは違うのよ、あなたはどうして少しもパパの辛さを思いやれないのかしら?
それにね、あなたたちは母娘の2人だけじゃないの、こっちは養わないといけない家族が大勢いるのよ。
イーピン:おばさん、あなたにお金をくれとは言ってないわ。私はパパと話しているの。
パパ、いい?
陆振华(父):雪おばさんの言うことは全くその通りだよ。もうあの頃とは違うんだ。お前ももっとパパの身になって考えてくれないと。金は天から降ってくるわけじゃない。
イーピン:尔杰(アールジエ:この家の息子)には新しいおもちゃを買ってあげて、ルーピンにはブレスレット買ってあげて、新しい絨毯にも交換できてる。運転手もいるし、使用人にメイドもいる、それに馬も飼ってる、それなのに私たちに200元は出せないと?
陆振华(父):なんだその態度は?誰が私にそんな口を聞けるんだ。 私には私の金を支配する権利がある。私が買ってあげたいと思えば買ってあげる、誰も私に干渉はできない。
イーピン:パパ、私とママもあなたの家族よ。本気で私たち親子を路頭に迷わせる気なの?
陆振华(父):路頭に迷わせるだと?私はお前たちを路頭に迷わせたか?どういう意味だ?お前たちが毎月生活費を取りに来ていなかったとでも言うのか?お前はどうしても父さんを怒らせいたんだな?そうなんだろう?
ルーピン:とりあえずこれを持って帰って使って、それ以上言わないで。パパを怒らせないで。足りない分はまた方法を考えるから。
雪琴:ルーピン、優しくするのもいい加減にしなさい!下がりなさい、この子はこのお金はいらないみたいだわ。
陆振华(父):イーピン、この金がいるのかいらないのか、どっちだ?
イーピン:200元ないならママに会えない。パパ・・・、あなたが父親だからこそ私はこうして謙虚に助けを求めているの。
陆振华(父):謙虚に?ずいぶんと傲慢に見えるがな!父親?父親は金貸しだとでも言うのか?
お前は率直に言って借金取りだな、お前の母親と同じで借金取りだ。
イーピン:私が好き好んで物乞いしていると思うの?私を養うのはあなたの責任でしょう!
もし最初東北にいた時、あなたが権力を使ってママを奪い取らなかったら、私たち借金取りは存在しなかった。もし私を産まなかったら、パパにとっても、私にとっても、幸運だったわ。
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いかがですか?
中国のドラマではこんな風に家族が本音でぶつかり合うシーンが多くあります。
中国の女性は気が強い、と言いますが、私はここで言うならイーピン、雪琴、どっちの気の強さも好きです。潔くて心地いいなあ、と思います。
今でいう毒親である父に対して、しかも元軍人の偉いさんで迫力のある父、歳をとってだいぶ弱くなったとはいえ、屈強な父に対して堂々と「私を養うのはあなたの責任よ!」と言える強さ。
しかも意地悪なおばさん、異母兄弟が勢揃いした敵陣の中でたった1人でこれだけ主張できる。
雪琴のあからさまな嫌味、意地悪な感じもわかりやすくて可愛いくらいです。
どっちも屈託がない。
日本人ならどうでしょうか?
この状況で父に言いたいことを全部言える娘がいるでしょうか?
私は一般的な日本人より主張が得意な方だと自負していますが、それでも両親揃っているだけでもお金の無心はなかなかできません。
今ならLINEでこそっと母だけに言ったりする人も多いのでは?
親族一同勢揃いの視線の中で自分の不遇を訴える、正当な権利を主張する。自己主張が苦手な日本人には非常に難しいことだと思います。
日本のおばさんも嫌味な人はいるでしょうが、笑っちゃうくらいあからさまな人は少数で、ドラマの中くらいでしか見ないかもしれないですね。
顔は仏で心は鬼かも。
中国のことわざに
刀子嘴,豆腐心 Dāozizuǐ, dòufu xīn
というのがあります。
意味は、「口は悪いが心は優しい人」
豆腐嘴,刀子心
「口は優しいが心は悪い人」(この言い方はないです^^;)
日本人は後者が多い気がしますね?こっちの方がよほど恐ろしいです。
よく京都の人は訪問客に帰って欲しい時に「ぶぶ漬けでもどうどすか?」と勧めるとか言いますが、、これを言われて「あ、じゃあ遠慮なく」ともらったりしたらとんでもないことで、「もう結構どす〜そろそろ失礼します〜」と立ち上がらないといけないなんて、なんてわかりにくい文化でしょう!
本音と建前。
外面(ソトヅラ)と内面(ウチヅラ)。
暗黙の了解。
空気を読め。
外国人にはさることながら、この文化に馴染めない日本人も多くいます(私も)
やはり言いたいことを言わないでいるのは人間はストレスが溜まることです。
なので、言いたいことを言ってはいけない、みたいな文化になってしまった日本で生きるしかない多くの日本人は中国や韓国のドラマではっきりぶつかり合う様をみてドラマに入り込むことで少し鬱憤を晴らしているのではないでしょうか・・・。
ちなみに、動物行動学と家族心理学を学んでいる者としてはイーピンの「私を養うのはあなたの責任よ!」という意見が正しいと思ってます。
親に育ってもらったことを感謝しろ、とか育ててもらった恩があるから、とかは生き物にとって無理のある感情です。
なぜなら、親が子を育てるのは当たり前だから!産んだ以上義務だから!
育ててもらったことを感謝しろ、というのは支配的な親による洗脳にすぎません。
毒親に苦しむ健気な子供たちが自分勝手な親にずいぶん当たり散らされてきたにも関わらず
それでも生きてはいるわけだし・・・
ここまで育ててもらったのは事実だし・・・
親を悪く思うなんて人として間違ってるんじゃ・・・
とかなんとか浮かんできて正当な権利を主張できずにいるなんて不自然だよね、と思います。
まあこの話は長くなるので近年話題の毒親問題については異文化比較の視点も入れて、私らしく切っていきたいと思います。