3月1日、インドで夫とともにバイクで旅行していたスペイン人女性観光客が集団性的暴行を受けたと現地時間3日に現地メディアとAFP通信などが報じました。女性は35歳で、スペイン国籍の夫とテントで眠っていたところ、突然入ってきたインド人男性7人から性的暴行を受け、隣で寝ていた夫も殴られるなどの暴行を受けました。
インドでは集団性的暴行事件が多発しています。外国人女性を狙ったものも多く、今回のように「夫が隣にいる」のにレイプされてしまうという信じられない事件も起きています。インドではどうしてこれほど性的暴行事件が多いのか、過去の事件とその社会背景を調べました。
外国人旅行客が夫の隣で強姦されるという衝撃の事件
7人から集団性的暴行を受けたスペイン人女性は35歳で、二人は旅行の様子をYouTubeやInstagramに投稿していたのですが、性的暴行被害に遭ったことも顔出しでInstagramのストーリーで動画にしています。
被害にあったスペイン女性とその夫(YouTubeより)
被害にあった場所はインド東部ジャールカンド州で、動画によると、スペイン人女性ビセンテさんは夫と寝ていたテントの中で7人の男性によりレイプされたうえ、強盗や暴行の被害にあったと言います。投稿で夫婦は、「彼らは私たちを殴ったり、強盗したりしたが、多くのものは奪われなかった。なぜなら彼らが望んでいたのは私をレイプすることだったからだ」と書いていました。
バイクのツーリング旅をしていた夫婦は、その日近くにホテルなどがなかったためキャンプをしていたということです。また、ロイター通信によるとインド警察は3月3日、2人を襲い、ビセンテ氏を集団強姦した容疑で男3人を拘束し、他4人を捜索中とのことです。
参照:yahooニュース、中国「鷹現場」
インドのレイプ事件は年間4万件。94%は知人友人親族による犯行
インド国家犯罪記録局(NCRB)が発表したレポートによると、2018年に確認されたレイプ事件のうち94%が、知人や友人、家族など被害者の知っている人間の犯行でした。
2018年に発生したレイプ事件は3万3356件。加害者の内訳は以下のとおりです。
- 被害者の知人(近所、家族の友人、雇用人) 1万5972件
- 被害者の友人(ネット経由含む)、結婚を口実とした同棲相手、離婚した元夫 1万2568件
- 家族 2780件
- 無関係の他人あるいは不明 2036人
被害者の知っている人によるレイプ事件が多発したエリアは、以下のとおり。
- マディヤ・プラデーシュ州(首都ニューデリーの南) 5209件
- ラジャスタン州(同西) 3748件
- ウッタル・プラデーシュ州(同東) 3718件
- マハーラーシュトラ州(インド中西部) 2124件
首都ニューデリーを含むデリー連邦直轄地内でも1215件のレイプ事件が発生しており、うち1194件(98.3%)は被害者の知人による犯行でした。
レイプ被害を受けた女性の年齢層は以下の通りで、18歳未満の少女を対象とする犯行は3割近くを占めています。
- 18歳未満 9433件(27.8%)
- 18歳以上30歳未満 1万7636件(51.9%)
- 30歳以上45歳未満 6108件(18.0%)
- 45歳以上 800件(2.3%)
インドでは1日平均90件超のレイプ事件が発生しています。
ただし、レイプ事件は被害女性が恥ずかしさや報復を恐れて事件を告白することが元々難しい側面がある上、インドではレイプ被害者が容易に訴える制度や体制が整っていないため、女性被害者が訴えることができない状況にあり、統計に上がっている数字は実際の発生件数より遥に少ないと考えられています。
勇気を出して訴えたとしてもそれはそれで大きな危険が伴います。2019年12月には、レイプ被害を訴えていた23歳の女性が裁判所に向かう途中でレイプ犯含む男たちに襲われ、体に火をつけられて死亡する事件が起きています。
インドで起きた凶悪レイプ事件
2012年のバス集団レイプ事件被害者の追悼集会(AFP)
2012年 23歳女子大学生バス内集団レイプ殺人
2012年12月16日、インドの首都ニューデリーのバスの車内で23歳の女子大学生が運転手を含む男性6人にレイプされました。鉄棒を性器に挿入されるなどの激しい暴行を受けた後、恋人の男性とともにバスから突き落とされ、女性は内臓に重傷を負い、およそ2週間後に死亡しました。
インドの最高裁判所は2017年5月5日、殺人や集団レイプなどの罪に問われた被告4人の上告を退け、死刑を言い渡しました。2020年に死刑は執行されました。実行犯のうち1人は事件当時未成年だったため少年院に収容されその後出所。主犯とみられるもう1人の男は拘置所内で死亡しています。
2022年 振られて自殺した少年の親族による復讐集団レイプ事件
【1月29日 AFP】インドの首都ニューデリー東部で2022年1月26日、21歳の既婚女性を拉致して集団レイプした後、街中を歩かせてさらし者にしたとして、複数の女を含む11人が逮捕されました。
ソーシャルメディアに投稿された映像では、顔に黒インクを塗り付けられ、髪を切られた被害者が複数の女に小突かれたり、罵声を浴びせられたりしている。周囲では見物人が歓声を上げ、携帯電話で動画を撮影していた。
警察は、隣人同士の「長年の対立」が原因とし、そのきっかけは加害者らの親族の16歳少年が、2歳の子どもがいる被害者を口説いて断られた後、列車に飛び込んで自殺したことに始まっていました。取材によると「未成年2人を含む11人全員が自殺した少年の親族で、複数の女が先頭に立っていたことは映像から明らかだ」とのことです。レイプを仕掛けたのは女たちだとのことです。
2018年 入院中の「4歳の女の子」が集団レイプされる
2018年11月3日(現地時間)、インド北部のウッタル・プラデーシュ州の州都ラクナウから南西に250kmほど行ったところにある町バレーリーの医療センター病院で、4歳の女の子が入院中に集団レイプに遭うという極悪非道な事件が起きました。
100人の男に強姦された14歳の少女
2009年、インド、ケララ州で14歳の少女が100人もの男に強姦されていたことが発覚しました。少女は初めに父親に強姦されたのを皮切りに、その後2年間にわたって父親の仕事関係(映画の業界)の男たちに日常的にレイプされていたと言います。少女が親戚に相談したことが事件の発覚につながり、100人は特定されて警察が逮捕または捜索していると報道されていました。少女は性病を患ってしまったそうです。
400人の男に強姦された16歳のホームレス少女
2021年11月の報道によると、マハラシュトラ州で路上生活を送っていた16歳の少女が400人からレイプされていたことが判明しました。
被害者は13歳の時にレイプされた33歳の男と強制的に結婚させられ、この男を避けようと家に戻ったところ父親からも性的暴行を受けたため、家を出てバス停留所でもの乞いするようになったと言います。加害者の中には警察官2人も含まれていたそうです。
レイプのやり方が非道「乳幼児も被害に」「殺害されるケースも多発」
8歳の少女に対するレイプ殺人容疑で逮捕された男(画像:gossipnews)
レイプを含む性的暴行事件はどの国でも発生していますが、インドではそのやり方、被害者の扱いがあまりに凄惨で非人道的であることが問題になっています。
特に未成年は被害者のうち3割近くを占めており、中には生後4ヶ月の乳児が被害にあったケースもあります。子どもに対する性的暴行にはインド国内でも激しい怒りを感じる人が多いです。
また、抵抗された場合や行為終了後に怪我をさせたり殺害してしまうケースも多数報告されています。首を切られたり目を潰されたり、走っている列車やバスから突き落とされたりして命を落としている事件もあり、女性を人間扱いしていない様子が見て取れます。
インドでレイプ事件が多い理由1:カースト差別
インドでレイプ事件が多いもっとも大きな理由は、カースト制度による人種差別です。
インド憲法はすでにカースト差別を禁止していますが、人種差別は根強く残っています。例えばカースト制度で最下位のダリットの女性が凄惨な被害に遭うケースが多発しています。
2019年、ダリッドの新婚の花嫁が結婚式でカースト上位の人々の前で食事をしたことをきっかけにレイプされ、翌日に死体で発見されたとBBC で報道されました。2016年に同じ男たちに二度レイプされた21歳の女子大学生もダリッドの女性でした。レイプだけでなく、些細な問題がダリットに対する殺人事件に発展しています (BBC を参照)。カースト差別の問題は解決が非常に困難で、インド政府がいろいろな対策を打ち出していますが、なかなか減らないようです。
インドでレイプ事件が多い理由2:宗教、人種差別
また、レイプ事件の背景に宗教による人種差別がある場合があります。
8歳のイスラム教徒の少女がヒンズー教徒の男性にレイプされ、殺された上にバラバラ遺体で発見された事件は、AFP や NewSphere が報道しています。カースト差別と同様、イスラム教徒に対する人種差別のヘイトクライムであり、宗教間の対立にまで発展し、解決が非常に困難だと思われます。
また、レイプではないですが、地方の農村やネパールの少女が、良い仕事があると騙されたり誘拐されたりして、人身売買によりインドの売春宿に売られ、強制的に売春婦にされているケースは、世界でもっとも多い数を示しています。
インドでレイプ事件が多い理由3:女性蔑視
画像:AFP
インドではカースト制度の影響から女性蔑視が大変強く残っています。
ダウリー:新婦側から新郎側への破格の贈り物
例えばインドには、結婚時に新婦側の家族から新郎側の家族へダウリーと呼ばれる贈答をする風習があります。
元々、上層階級であるバラモンの階級で行われていた慣習ですが、現在ではカースト制度の下級層にまで浸透しており、結婚時に新婦側は新郎側に莫大な貢ぎ物をすることになっているのです。
ダウリーの具体的な金額は、インド人の大卒男性の初任給が約6250円なのに対し、25万円から500万円にも上ると言われています。
女児殺し
経済的負担から多くの貧困家庭では、女の子を妊娠していることが分かれば中絶し、産まれてきた女児はアヘンを使うか、砂やマスタードの種が入った袋を押し当て窒息させるなどして殺してしまう、という耳を疑うことが起こってしまうのです。
インドでの「女児殺し」の慣習は、イスラム教徒との戦争時に娘を敵からの強姦から守るために行われたのが始まりだと言われています。
児童婚
photo:クーリエジャポン
さらに同じ理由で「児童婚」もいまだに残っています。
女性蔑視の根強いインドでは女性の社会的地位も収入も低いため、経済的に生産性のない家族を一人抱えることは、家族にとって経済的な重荷となり、早く結婚してくれた方が家族の負担が少なくて済むということが、児童婚の始まりだと言われています。
また、結婚時の贈答の金額は新婦の年齢が低ければ低いほど下がるため、早く結婚させたいと考える貧困家庭が後を断ちません。
現在インドでは、法律上18歳以下の子供は結婚できないことになっていますが、経済的な理由でやむを得ず早期の結婚を選択するしかない場合もあり、なかなか根絶できないのが現状です。
サティ:夫とともに死ぬのが貞節な妻
ヒンドゥー教の古い慣習の一つであるサティは、夫に従順な妻が夫の死後殉死することが美徳という考え方で「貞節な妻」を意味します。
ヒンドゥー教では、女性の人格は認められておらず、夫が亡くなり火葬する際、自分も同じ火により焼死することを厭わないとされています。この残酷な慣習は1829年まで続きましたが、現在では禁止令が出されています。
ガオゴル:月経中の女性は不浄
ガオコルとは月経中の女性は「不浄」だとする考えで、女性はその期間、他の村人や家の中の道具や衣服、家族にさえも触れてはいけないのです。
月経中の女性が触るものが「不浄」になるからと考えられています。中には、月経中の女性を見ただけで不吉だと考える男性もいるようです。そのため月経が始まった女性達は、村にある不衛生な小屋に入りその期間をその小屋の中で過ごすか、または人に会わなくて済む別の場所で過ごさなければなりません。
参照、引用:MIRASUS
インドでレイプ事件が多い理由4:警察や裁判所が抑止力になっていない
議員による抗議集会(AFP)
インドでは法律的にレイプ被害を訴える制度や体制が整っていないため、被害を訴えられたとしても警察及び裁判所が十分に効果を発揮できないという面があります。
2012年にニューデリーで起きたバス内女子学生レイプ殺人事件をきっかけに、全国で抗議デモが起き、インド政府は2018年4月、12歳以下の子どもに対する性的暴行で有罪になった者は死刑にすることを承認しました。
それでも被疑者が有力な一家やコミュニティの出身者である場合などでは、警察が被害届の受理を拒否したり、被害者家族に「和解」や「妥協」の圧力をかけることがあります。
また、インドには証人保護法制がないため、レイプ被害者や証人が圧力に対してぜい弱になり、訴追に至らないことがあると言います。加えて村落単位の非公式な自治組織カップ・パンチャヤット(Khap Panchayats)は、被疑者が上層カーストに属する場合は、刑事事件を追及したりしないよう、あるいは証言を変えるよう、ダリット(不可触民)やいわゆる「低カースト」の人びとに圧力を加えることが多いということです。
バスレイプ事件の加害者の一人は警察の調べに対し、「レイプしても裁かれないと思っていた」と話したと言います。
政府の犯罪統計によると、同国で2021年に報告された性的暴行事件は3万1677件で、バスレイプ事件の被害者の母親は2022年の集会で「10年経っても何も変わっていない」と話しています。
参照、引用:HUMAN LIGHTS WATCH
インドで性的暴行事件が多い理由:まとめ
- カースト差別
- 宗教、人種差別
- 女性蔑視
- 司法が効力を発揮できない社会
このように、歴史的に女性蔑視が強く、被害を訴えた場合に村八分になるなど女性差別が厳しいこと、カースト制度に基づく人種差別、イスラム教とヒンズー教の対立があり、少数民族であるイスラム教徒に対する人種差別、また、警察および裁判所が抑止するのに十分機能していないこと。などが主な原因です。
近年は外国人観光客も狙われる。2015年には日本人女性も監禁強姦の被害に
コルカタの街を歩く外国人観光客(画像:AFP)
以前は外国人、特に欧米人に対する「目上意識」が相当あったので外国人観光客が襲われることはほぼなかったそうですが、近年はその意識も減り、外国人も狙われるようになってしまいました。
2015年には仏教聖地ブッダガヤ近郊で日本人女性観光客(22)が3週間にわたり地下室に監禁され、男5人に繰り返し強姦された事件が発生しています。
西ベンガル州コルカタ市警察幹部がAFPに語ったところによると、女性は昨年11月20日に同市を訪れてから間もなく、地元の男3人と知り合った。うち1人は日本語に堪能だったとされる。男らは女性に1200ドル(約14万円)相当の現金を引き出させた後、隣のビハール州にあるブッダガヤへと共に向かった。女性はブッダガヤで観光ガイドをしている兄弟2人に引き渡された。兄弟はその後、女性を1か月近くにわたり地下室に監禁し、繰り返し性的暴行を加えたとされる。
インドの強姦事件は、夫や恋人の男性が一緒にいても起きていますし、特に露出の高い服を着ているとか一人で夜道を歩いていたなどの状況に限っていません。そのため防ぐのがなかなか難しそうですが、女性の皆さん、インドへ行かれる際はくれぐれもご注意ください!