2024年3月11日(現地時間10日)にアメリカ・ロサンゼルスで行われた第96回米アカデミー賞授賞式で、主演女優賞を受賞した女優のエマ・ストーンさんの行動が「アジア人差別ではないか」とSNSを中心に炎上しましたが、その陰で同じステージ上で助演男優賞を受賞したアメリカ人俳優ロバート・ダウニーJrさんが中国系ベトナム人俳優キー・ホイ・クァンさんを無視するような態度があったとして批判されていました。そこから日本人ハリウッド俳優の松崎悠希さんやアメリカ在住日本人などから差別経験の告白などが広がり、波紋が広がっています。
ハリウッドのアジア人差別の実態をまとめました。
【炎上のきっかけ】エマ・ストーンが中国系マレーシア人女優ミシェル・ヨーからオスカー像を受け取らなかった
画像:シネマトゥディ
ミシェル・ヨーからオスカー像を受け取らず、ジェニファーから受け取った
今年は歴代受賞者5人がステージに立ち、プレゼンターを務める演出がありました。ファンタジー映画『哀れなるものたち』で、主演女優賞を獲得したアメリカ人女優エマ・ストーンは、昨年の受賞者で中国系マレーシア人のミシェル・ヨーからオスカー像を受け取るはずでした。
しかし、エマさんが壇上に上がり、オスカー像を持ったミシェルさんの元に近づくと、ミシェルさんはオスカー像を手にしたままエマさんとともに横に数歩移動し、同じくプレゼンターとして壇上に立っていたジェニファー・ローレンスさんのもとへ行きました。
そしてミシェルさんがジェニファーさんにオスカー像を渡し、エマさんはジェニファーさんからオスカー像を受け取ったのです。ミシェルさんが像を手渡せばいいものを、なぜわざわざジェニファーさんから渡すことになったのか、周囲は不思議に思いました。
アジア系への「軽視」だと韓国を中心に大炎上
SNSでは、一連の行動について、アジアにルーツを持つミシェルさんへの差別的行為ではないかとする指摘が上がりました。直接オスカー像の受け渡しがされなかったことで、「アジア人女性であるミシェルさんを軽視している」とする見方があり、特に韓国では大炎上しました。
ミシェル・ヨーが「自分がジェニファーを間に入れたのだ」とコメント
michelleyeoh_official instagram
騒動を受け、プレゼンターをつとめたミシェル・ヨーさんが自身のインスタグラムでコメントを出しました。
ミシェルさんはエマさんとジェニファーさんが親友であることを知っていて、親友のジェニファー・ローレンスと共に、エマの晴れ舞台をさらに特別なものにしようという心遣いだったようです。エマさんがミシェルさんを無視した訳ではなく、ミシェルさんからそのように動いたというのが真相で、今回の件は世間の過剰反応だったとして落ち着いたかのように思われました。
さらに普段のエマなら、ヨーの誘導に乗らず対応できたはずだと映画ライターは話しています。
ただこの日は、ルイ・ヴィトンのドレスの背中ファスナーが壊れ、ステージに上がる際には背中を見せ、『なんてこと。ドレスが壊れちゃった』と動揺していた。そもそもエマは、自分が受賞すると思ってなかったようだし。
東スポweb
エマ・ストーンに人種差別主義者だというような評判は一切なく、ただ興奮して動揺していたというのが真実のようです。
しかし同じアカデミー賞のステージでもう一人「アジア人差別では?」と批判を受けていた俳優がいます。
ロバート・ダウニーJr.も中国系ベトナム人俳優キー・ホイ・クァンを無視?
画像:東スポweb
エマ・ストーンと同じ「第96回米アカデミー賞」授賞式のステージ上で、助演男優賞を受賞したアメリカ人俳優ロバート・ダウニーJr.が、プレゼンターだった中国系ベトナム人俳優キー・ホイ・クァンにに名前を呼ばれ、ステージへ上がりました。
ただ、ダウニーはクァンに目も合わせずにオスカー像を受け取ったように見え、ティム・ロビンスさんやサム・ロックウェルさん2人とだけ握手、グータッチをしています。クァンがダウニーの名前を読み上げた封筒も受け取らず、無視してそのまま受賞スピーチを始めました。
この行動が、ステージを見ていた人から「目も合わさず、片手で奪い取っている」「なぜあんなに、露骨に無視するのか」「賞を引き継ぐのは俳優にとって重要なことだが、(クァンさんは)5人の中で一番無視された」などと言われ、エマと同様「アジア人差別、軽視」だとして批判を受けました。
エマの件はミシェルが真相をコメントしたおかげで収束しましたが、ダウニーは騒動後にインスタを更新しましたが、この件についてのフォローがありません。
海外取材の経験が豊富な映画ライターは、エマはセーフ、ダウニーはアウトだ、と話しています。
「1990~2000年代のたび重なる薬物事件、服役から復帰し、アカデミー賞は3度目のノミネートで獲得した。舞い上がってたのか、つい本心が出たのでは。アジア人蔑視というより、白人しか見てないという感じもある。リスクマネジメントしている広報担当が速攻でフォロー。ダウニーとクァンら歴代受賞者がバックステージで握手したり肩を組んだりした写真をオフィシャルで出したが、後の祭り。コトが大きくなりすぎている」
クァンの肩を組んでいる写真をアップしたがやはり顔はクァンを見ていない
画像:ロイター
ダウニーのインスタのコメント欄には批判的なコメントも寄せられています。
ハリウッドの根強いアジア人差別の実態
アジア人俳優は配役が少なく、俳優として仕事を続けるのが難しい
クァンさんは2023年に「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のウェイモンド・ワン役で助演男優賞を受賞しています。 1980年代に『グーニーズ』や『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』に出演し、子役として活躍していました。 しかし、近年はアジア人の配役が少ないハリウッドで俳優として仕事を続けるのが難しく、スタントコーディネーターやアシスタントディレクターとして働いていました。
クァンさんは2023年にアカデミー賞を受賞する1カ月前に、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のウェイモンド・ワン役を得る前に次から次へとオーディションを受けたものの、まったく採用してもらえなかったと語っています。
みんなが私のことを忘れてしまったと思っていました。でも、映画が公開されてから、とても多くのポジティブで優しい反応がありました
調査でも明らかに「ハリウッドでアジア人差別はある」
配役が少ない、仕事が決まらないなどは単純に「アジア人差別」だとは言えませんが、差別の実態に関する調査でははっきりと「差別がある」と答えが出ています。
「ジーナ・デイビス・メディアにおけるジェンダー研究所」の2021年の調査では、ハリウッドで働くAPI(アジア太平洋諸島系)の80.9%がマイクロアグレッション、55.6%が露骨な人種差別、72.5%が名ばかりの差別撤廃を経験したと回答しました。
アメリカで活動する俳優・松崎悠希 映画ポスターから消された過去 「「我々にとっての『ハリウッド』は2024年の今でも、クッソ人種差別的です」
アメリカおよび日本で活動する俳優の松崎悠希さんが3月13日、Xで自身が経験した「アジア人軽視」にまつわる「トラウマ」を明かしました。 松崎さんは『硫黄島からの手紙』『パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉』などに出演 しています。
「ハリウッドのアジア人の『透明化』の件で僕のトラウマになってることの一つが、2009年の映画『ピンクパンサー2』で、メインキャストで僕だけがポスターから『消された』こと。ポスター用写真(2枚目)も撮影してたのに。そりゃインド人のアイシュワリヤー・ラーイさんは残ってるけどさ…」
『ピンクパンサー2』で松崎さんは日本からチームに参加した捜査官「ケンジ・マツド」役を演じました。
ポスター用に撮影はしたが、実際公開されたポスターには、主人公を演じたスティーヴ・マーティンさんを中央に、左右にメインキャラクターから3名ずつの合計7名が並び、松崎さんの姿はなかったと言います。
松崎さんは別の投稿でも自身のインタビュー記事を引用し、
と訴えています。
先日出演した #アベプラ の、ハリウッドにおけるアジア人差別についてお話した部分の動画が公開されました。私自身が実際にハリウッドで受けた差別の体験談を含め、改善のため我々はこれからどうすべきか、という点などまでお話しています。https://t.co/oyeAXjwSeq
— Yuki Matsuzaki 松崎悠希📽️ (@Yuki_Mats) March 15, 2024
存在をスルー 経験者が典型的と呼ぶアジア人への差別
ダウニーのクァンに対する態度は「典型的アジア人差別の態度」として自身もそのような態度をされた経験を持つアジア系の人々の心をさらに傷つけました。
白人による人種差別の典型的なやり方は
ものだとして、SNSでは怒りのコメントを書き込む人が多数現れました。
存在を無視するため、「アジア人の透明化」と言われています。
「Getty Images」にバックステージでクァンと握手を交わす写真が掲載されたことに対しても、
との反論も多数書き込まれました。 また、海外で長く生活をする日本人にとっては、ダウニーのような態度の一つ一つが日常的に身に覚えのあるもので、見ているのがとてもつらいという投稿も相次いでいます。
アメリカ在住の日本人も共感「人種差別は日常!」
ニューヨーク在住歌手・モデルのkemio 「白人だったら、と考えることが多かった」
歌手でモデル、タレントのkemio(28)は、アカデミー賞での俳優の差別的態度に対して意見を求められ、ストーリーズで「ニュース見ました!映像を見ました!インスタの投稿も見ました!」と投稿しました。
この件に関しての回答では無いんですが、海外生活をする上での人種差別的な経験は全然あります この件をきっかけにいろんなことを思い出しました!あります。全然あります。
よく『ニューヨークに住んでいて、人種差別を経験することありますか?ニューヨークで見ます!』ってコメントとか届くんですけど、実際の私生活で経験する人種差別ってニュースとかに乗るような暴力をされたりだとかよりも生活の中で見落としがちな、マイクロアグレッション的なことばかりです!その日あった出来事を振り返り差別されてる?って後から寝る前に考えて思い出すことがすごく多いです。
keimoさんによると、マイクロアグレッション的人種差別とは例えば
言葉で説明しにくい、「気のせいだよ」で片付けられやすいような曖昧なものが多いようです。
帰国子女元TBSアナウンサー小島慶子 『アジア人』という名もなき無価値な存在としてあしらわれたことがある
元TBSアナウンサーの小島慶子さんもが14日Xでアジア人差別を受けた過去の経験を綴っています。
幼少期を海外で過ごし、近年もオーストラリアと日本を行き来する生活を送るなどしてきた小島は、「あれ?これは、うん、やられたな…ってことは何度か経験した。
自分は『アジア人』という名もなき無価値な存在としてあしらわれたことが。そういうときに気を付けているのは、相手の属性を憎まないこと。相手の人種や国籍を嫌悪したら同類になる。憎むべきは、人種や見た目で人に優劣をつけ、無礼な態度をとる行為。
この世にはそれを平気でやる人と、そうでない人がいる。嫌がらせをされたとき、その行為がいかに醜悪かを目の当たりにして、自分は決してこうはなりたくないと思った。
もしかしたら経験がない人は、アジア人差別を言い立てるのは被害妄想!と言うのかも。けれど構造的な差別がある限り、差別はあってはならないと言い続けないとならない。個人的に”差別なんか気にしない自分”でいたいならそれは自由だけど、残念ながらその態度はあなたに対して差別感情をもつ人々に好印象を与えもしないし、それをもって対等に扱ってもらえるわけでもないのだよ、とお伝えしたい。
白人社会では人種差別は当たり前。時に毅然と指摘し、時には気にしない
小島慶子さんは、自身の人種差別との向き合い方について、
「アジア人は特に何も言わなくて静かだという印象を持ってる方がちょいちょいって。それをSepak upしない=リスペクトでめっちゃピースだから大丈夫と意味不明な解釈をする人もいるのです。
全てを差別と言ってレースカード出すのも少し違うなぁと思うのですが、白人とは、人種差別系の会話はするのあまりしなくなりました!
結局『考えすぎだよ』とかで片付けられるので わかってるように振る舞うけど、結局はここで生活するのにいかに優遇されている特権を持っているかということ気づいている人は、ほとんどいないので自分の気持ち的にもあんまり話さなくなりました(全ての人がそうではないですが!)
キャリアを積む上で、